祖母の命日が、近い。
大きく膨らみ始めた白木蓮のつぼみ、陽の光に良く似合うレンギョウやスイセンの黄色の花。
本格的な春がやってくるころ、いつも彼女を思い出す。
小さな頃、祖母が嫌いだった。
日焼で真っ黒な顔。ごつごつの手。
大きなしゃがれ声で呼ばれると、いつも叱られているような気持ちがした。
訪ねるたびに出てくる祖母の手打ちそばも、子供にとっては“無理に食べさせられる苦い食べ物”に過ぎなかった。
高校生になった頃、ようやく、祖母の打つそばの旨さに気がついた。
いつの間にか、祖母は小さな人になっていた。
「おう、来たのか。それじゃあ今から、そば、ぶってやる」
曲がった腰を小さく屈めて力強くそば粉を捏ね、やがて、ざっくりとして不揃いな、まるでうどんのように太いそばの出来上がり。
豚肉とゴボウで出汁をとって醤油だけで味付けた温かい汁。
いつも同じ味その汁に、田舎風の太いそばはよく合っていた。何度もお替わりをして、お腹を一杯にしたものだった。
通りかかった壬生町の農産物直売所で、地場産のそば粉が目に付いた。
久しぶりにそば打ちしてみようかな。
温かい汁を作るのに必要なごぼうも買うことにした。
水を含んだそば粉のねっとりとした感触。慣れない手つきでしばらく捏ねていると、身体がじんわり暖まってきた。
そういえば。
祖母とゆっくり話したことは、ほとんど無かった。
何かを語るということが、そもそも、あまりない人だった。
いつも笑ってばかり。人なつっこくて、どこでも誰かを見つけては楽しそうにおしゃべりをしていた祖母。
打ち終えたそばを、少し太めに切った。
ごぼうを刻んで、豚コマと一緒に油を引いた鍋で炒めて、豚肉の赤身が消えたら水を入れて沸騰。味付けは醤油だけ。
ゆであがったそばを水にさらしてから、葱を刻んで温かい汁に入れて、食べてみる。
懐かしい、祖母の味。
大正時代に生まれ、ひたすら畑仕事の毎日。
生まれて間も亡くなったという何人かの子供たち。
戦争で戻らなかった家族。
終戦、高度経済成長・・・
喜びや哀しみ、様々な出来事。
どんな時間を過ごしてきたの?
何も聞くことは出来なかった。
不思議な記憶がある。
祖母の押す一輪車に乗って嬉しそうな、5歳くらいの僕と妹。
何故か自分自身も映り込んでいる記憶の中の映像には、孫を見つめる、どこまでも優しい祖母の笑顔。
僕たちは、「表現する」ための、たくさんの手段を得た。
けれど、祖母たちの世代は、何かを語ることなく、とても静かに去っていく。
田舎風の太いそば、ゴボウと豚コマと醤油だけの素朴な汁。
祖母から母へ、そして自分へと引き継がれた記憶の味。
いつか、息子にも伝えていきたい。
彦音色でした。
【今回御紹介したそばレシピ】
[そば(7:3で打ってみました)]
そば粉350g 小麦粉150g(出来れば中力粉) 水250g
※そば粉は壬生町の農家の方が生産した石臼引きでした。
[温かいそば汁(田舎風)] ※レシピにしてみたのは初めてです。
○材料 豚コマ:50~100gくらい ゴボウ:1/2本くらい(ささがきに刻む)
(豚肉、ゴボウはダシなので、多すぎず)
○作り方(3~4人分)
油を引いた鍋で豚コマとゴボウを炒める。
豚コマの赤身が消えたら水600ccくらい入れて沸騰
適宜、醤油で味付ける。(他の調味料は入れません。たっぷり使います。)
そばは別の鍋で茹でて、水でさらしてから温かい汁をかけて食べます。
お好みで七味唐辛子などをどうぞ。
○一口メモ
豚コマの代わりに、鶏肉を使う場合もあります。
また、手打ちうどんの汁にもおすすめ。
ただし、うどんの場合は小さじ半分くらいの味噌を入れます。
(本当にごく少量。汁わずかに濁る程度)
【今回、そば粉を購入した農産物直売所】
「JAしもつけ地区壬生直売所」
住所:壬生町上稲葉1664
電話:0282-82-8361
営業時間:午前9~午後4
休業日:原則年中無休(店舗都合により不定期の休みあり)
関係ホームページ http://www.ja-shimotsuke.or.jp/tyokubai.html
※他にも県内のたくさんの農産物直売所でそば粉を販売しています。
※ 栃木県農政部の情報は、「とちぎファーマーズチャレンジネット(http://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/)」や「栃木県農政部ツイッター(http://twitter.com/tochigi_nousei)」でも発信していますので、是非、ご利用ください。