「地域の食文化とコラボ」編

 建築家のご主人が、解体寸前の古民家を引き取り那須に移築。2000年
に神奈川県川崎市から移住し、イタリア料理店を営むという思いもかけない変化とともに始まった田舎暮らしは9年目に入りました。
  「旬の素材に出会い、その土地の風土や気候にマッチした料理を出すことは都会ではできない」と、日本とイタリアの文化や歴史を独特の味つけでコラボレーションする宮地さんご夫妻にお話を伺いました。

■古民家移築は建築家としての使命感から  古民家再生の仕事をしている建築家仲間から、福島県南郷村に解体される古民家があるという話しを聞いて見に行ったのがきっかけです。築100年、総二階の素晴らしい家がバラバラにされるのかと思うと建築家としての使命感が沸き起こったんですね。でも、引き取った限り自分で住むしかないので、どこに移築しようかと。こうした家は気候風土に合わせて作られているから、元あった場所からあまり遠くに移すものじゃあない。仕事もあったので東京からの地の利を考え、それで那須にしたんです。
  それにしても、夫婦ふたりで住むには建物が大きすぎる。たまたまそんな話しを知り合いのイタリア料理のシェフにしたら、「じゃあ、レストランでもやればいい。料理は教えてあげるから」と言われ、それまで考えもしなかった「那須でイタリア料理の店をやる」ことになったわけです。
  1年間、東京で仕事をしながら家の図面を描き、イタリア料理を勉強しながら那須の現場に通いました。


■イタリア各地方の料理を1年ごとに出すレストラン  うちのレストランが普通のイタリア料理店と違うのは、1年ごとに出す料理が違うという点です。毎年1、2月にイタリアのある地方を旅して、春からその地方の料理を1年間お客様に提供しています。これまで8年、イタリア20州のうち16州を訪れ、今年はサルディニア地方を旅して、1年間サルディニアの料理を出しました。9年目は、プーリアやバジリカータ地方に行く予定です。そこはナポリに近いところで歴史的にも都市計画的にもとても面白い土地です。その地方の文化や歴史などを理解しながら料理を仕込み、そして、その吸収した成果をお客様に発表するのです。あと2年くらい行けば、だいたい踏破できるんですよ。
  食材は、自分の畑で作っているものもあるし、地元で有機農法をやっている農家さんともつき合っています。アーティチョークやパセリ、ルッコラも原種に近い珍しいものを作っている人がいます。また、那須の冬の寒風は、ベーコンやパンチェッタづくりに最高に適してる。今日も、鹿肉のハムを作ってるんですよ。
  東京では手に入りにくい、入ったとしても非常に高価な、例えばズッキーニの花などもここでは気軽に使えます。外の畑に行って採って来ればいいんですから。都会の人がここに食事に来た時、田舎らしいフレッシュなものを出せるのがいいですね。


■自分から手を伸ばせば知り合える、それが田舎サイズの良さ  農家さんもですが、那須でパン屋さんやアイスクリーム屋さんなどをやっている人たちと素材の話しをします。素材をどんなふうに選ぶかなど、食や文化を提供しようとしている者同士、つき合いが広がっています。
  都会との差は、こうした人との繋がりにあると思うな。東京では何かを投げかけてもなかなか求めている人に届かないけれど、小さい田舎では必ず答えを出してくれる人が現われる。そういう意味では、田舎はちょうど良いサイズなんです。

@/お客様をもてなすバースペースで
A/イタリア料理G&S MIYACHIのサインプレート
B/10メートルはある独特の高い天井
C/古民家風レストランの宮地さん宅
D/自家栽培畑の様子を確認する
E/レストランで出す野菜には自家栽培のものも
F/千代子さんが作るお人形には物語がある
G/手づくりのお人形
IJ/古民家の軒先には干し柿が…