「地域とのつながり」編

 朽ち果てるままになっていた築80年の旧家を借り、新潟県柏崎市から移住して3年。味わい深い陶器の創作活動のかたわら、陶芸教室を開いたりイベントを主催したりと地域を盛り上げようと活動を続ける浦東さんご夫妻。「この土地で焼き物づくりができるのも、ここの人たちに助けてもらっているから。子どもたちの成長もみんなが見守ってくれている」と言います。お二人にお話を伺いました。

■思うように焼き物を作りたくて移住を決意  以前いた新潟県の柏崎は、雪が多くて焼き物にはあまり適さないところだったんです。晴れる日がないから冬場はまったく乾かない。ずっと辛抱してたんだけど、栃木県内に住む知人にそんな話しをしたらこの辺りで住むところを探してくれることに。そして、こんなに良いところが見つかりました。
  何軒が見て回って、でもあまりきれいな家だといじる楽しみがなくて焼き物屋には似つかわしくないと思ってね。ここはかなり古いです。もともと地元の名士が住んでいた家で、ここ30年ほど空き家になっていたんです。壊れるのを待っているような状態だったんだけど、敷地は広いし蔵や離れもある。気に入って、貸してくださいと大家さんに頼みに行きました。大家さんにすれば、突然のこと。誰だか分からないのが訪ねて「貸してくれ」と言ってもなかなか返事をくれません。すると、地域の顔役のような方が「空けといてもしょうがない。朽ち果てるばかりなのだから」と話してくれた。結局、どんなに手を入れても改装しても良いと言って貸してくれました。
  大家さんの娘さんたちはここで育ったんです。だから昔の雰囲気をなるべく壊さないように、墓参りとかに来たときにはお茶でも飲んで行ってくれるように、懐かしいと思ってもらえるようにしています。

■「蓬莱窯」を築窯、地域の人たちと一緒に「若葉祭」を開催  2007年3月に築窯した「蓬莱窯」。名前は、この奥にある蓬莱山に由来します。窯を作るのに、建屋や屋根葺き、煉瓦積み、いろんなことを地元の人たちに助けてもらった。地域への感謝の気持ちを込めて「蓬莱窯」と付けました。
  今は、焼き物の展示と陶芸教室をやってますが、行く行くはこの蔵をカフェにしたいと考えています。ここの通りは何もないから寂しいでしょ。この奥に水汲みに来る人がいるけど立ち寄るところもない。それで何か、少し賑やかにしたいなと。
  実は2007年5月に第1回「若葉祭」というイベントをやったんです。いつも地域の人たちに協力してもらっているお礼の感謝祭です。そうしたら農家の奥さんたちがみんなで手伝ってくれた。実行委員会のようなものを作って、日程や内容なんかどんどん決めていく。出展も宇都宮から木工をやっている人とか、紙芝居をやっている人とか、いろいろな人が瞬く間に集まった。当日も、ものすごいお客さんが来て、駐車するのも大変なくらい。僕らは素人で、イベントの対応なんて慣れてないからあたふたしちゃって。でも、たくさんの人の協力があって成功しました。地域と一体となって何かやるというのは素晴らしいですね。堪えられない。
  今度、納屋を改装してギャラリーにしたいと思っています。この辺りで木工をやっている人がいるんだけど人に見てもらう機会がない。そういう人たちのものを展示して、誰でも見られる、気に入ったら買ってもらう、というようなことをやりたいんです。これも、地域の人たちと相談しながら実現したい。
  そんなことを年中考えているから楽しいですよ。

@/陶芸教室の生徒さんの作品をストーブで乾かす
A/1階は陶芸教室、2階は子供部屋。すべて手づくり
B/趣のある絵が浮かび上がる灯りは 田植定規を利用して作ったもの
C/いずれはカフェに、という蔵の中からはコーヒーの香りが
D/どうしても欲しかったという居間の暖炉も手づくり
E/歴史を感じさせる蔵。今は地域の人たちが集まる憩いの場
FG/地域の人たちの協力で築窯した穴窯
HIJ/野州蓬莱窯南山焼、浦東さんの作品の数々
KL/「若葉祭」の様子(浦東さん提供)